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春休みに入った土曜の朝。
家の最寄り駅からふたつ離れた駅前で待ち合わせ。
前の晩はどんな服を着ていこうか、何か持っていこうか、なんて悩みながらもうきうきした気分でした。
結局はGパンにピンクのダンガリー、薄手のパーカーなんて何の変哲もない格好でしたけど、下着は新しいものを着けていきました。…理由は、もちろん…。
四駆の車が僕の前に止まりました。下りてきたのは、Kさんです。茶色系のジャケットにくすんだオレンジのシャツ、落ち着いた感じの服装でした。
『よっ』いつもの挨拶ですが、今日はなんだか楽しそう。
『おっきな車ですね。Kさんの?』
『レンタカーやよ。俺の給料やとこんなん買われへんわ』
『お店に来るの減らしたら?いつも飲みすぎ、食べ過ぎですよ』
『いや、それは譲れん。…制服姿もええけど、私服も可愛いな』
『よしてくださいよぉ。…ありがとっ』
短いやりとりの後、二人で車に乗り、出発しました。
『朝ごはん、まだやろ?マクドでよかったら食べり』『あ、ありがとう』
行き先なんて決まってません。とにかくどこかへ。
Kさんが音楽を掛けてくれました。クラシックです。『こういうの、聞くんですか?』
『嫌いか?』
『ううん。ちょっと意外かな、って』
『実は元ブラバンやねん。賞取ったこともあるで』
『うわ。すごい意外!』
『…君なー。俺をどんな風に見てんねん?』
『え?だってどう見ても体育会系じゃないですか』
『あのなー』
車の中、お話が弾みます。
高速道路に乗って南の方角に走ります。
『船、見にいこか?』
『船?』
『案外、ええもんやぞ』
横浜の方に行くみたいでした。
横浜に着いてからは、車で港のあちこちを見て回ったり、潮風に当たりながら海を眺めたりして過ごしました。
Kさんは海とか船とかがほんとに好きみたいで、子供さんみたいにはしゃいでました。
『俺、ほんまは船乗りなりたかったんやけどなー』
タバコを吹かしながら海を見てるKさん。春の日差しに波がキラキラしてます。僕も隣で遠くをゆっくり進む白い船を眺めました。
暖かな、平和な時間。それを二人で共有しているのがなによりも幸せでした。
それからは、市内の散策に出掛けました。山下公園や外人墓地など、いわゆる定番ですね。
中華街でお昼。お茶は僕にはちょっと苦かったけど、おいしいものを色々食べて満足でした。
それから夕方まで色々歩き回り、横浜をあとにしました。
本当に楽しい一日でした。
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