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Kさんはびっくりしたようでしたが、やがて僕の髪を撫で始めました。両手で僕の顔を包み込むようにして覗き込みました。とても優しげな視線でした。
『何があった?…話せるなら話してごらん?』
僕は屈辱に満ちた、『あの日』の事を話し始めました…。
話し終わって、不思議と涙は出ませんでした。
Kさんに聞いてもらえてわだかまりみたいなものが消えたのでしょうか、清々しいぐらいだったのを今でも覚えています。
そして、この、僕の恋人はあんな事件のことぐらいで僕を捨てたりする人ではないと確信し、どうして今まで話さなかったのか、とかえって後悔しました。
煙草を吸いながら僕の話を聞いていたKさんは、僕の頭をポンと叩くとクシャクシャしてくれ、それから僕を抱き締めました。
『…辛かったんやな』
抱き締めたまま、Kさんが言いました。
『そんな辛い話を、よく話してくれたな。…ほんま、偉いな、いや、強い子やな、お前は』
抱擁を解いたKさんの眼が涙で潤んでいました。
『…怒らないの?』
『怒るか、あほ。…ていうか、そのオッサン、探しだしてシバき倒さなあかんな!直紀に酷いことしやがって!』
僕は首を振りました。
『やめて、そんなこと。Aさん、殺しちゃうかもしれないから…Aさんが犯罪者になっちゃったら、僕、イヤだよ』
Kさんが息巻くのがなんだかおかしく思えて、僕は久しぶりに笑顔を見せることができました。
『お?やっと笑ったな?やっぱり直紀は笑った顔が一番や。…わかった、やめとくよ。蹴り一発ぐらいで』『もう!』
お互いが吸い寄せられるようにキスへと進みました。『…どんな事があっても直紀は直紀や。…俺の大事な直紀や』
『…ありがとう』
…僕の上に、ゆっくりとKさんの体が重なっていきました。
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