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『今度、どっか出掛けよか?もうすぐ春休みやろ?』Kさんがそう持ちかけてきたのは三月のある夜、雨の日でした。
『え?』
『どうかな?たまにはええやろ』
それは願ってもない提案でした。公園だけじゃつまんなくなってきてたし、それに…もう少し進展したいと思ってたので…。
『うーん。どうしようかなぁ…』真意と裏腹に、ほんの少しの悪戯心でKさんを焦らしてみようと思いました。
『なあ?好きなとこ連れてってやるから…』
『そーだなぁ…』
Kさんがおねだりする子供さんに見えて、おかしかった。
『こら、直紀!お客さまに呼ばれてるのいいことにサボってんじゃないぞ』
『ごめんなさーい。…考えときますねっ』
僕は洗い物をしにKさんの許を離れました。
お仕事が終わって外に出ると、いつものようにKさんが待っててくれました。
雨はまだ止んでなくて、二人で傘を差し、並んで歩きました。
公園に入って人目がなくなると、Kさんが手を握ってくれました。僕は傘を畳むとKさんの大きな傘の下に…ぴったりと寄り添いました。
『…甘えん坊。濡れるぞ』Kさんが優しく肩を抱いてくれました。
二人で相合傘。なんかすごくロマンチックに思えました。
僕は足を止めてKさんの胸に顔をうずめ、目を閉じました。
『お、おい』
『ごめん…。しばらくこうしてて…』
今考えたらすごく恥ずかしいけど、このまま死んじゃってもいい、なんてさえ思いました。
Kさんはそんな僕の髪を撫で続けてくれました。
『さ、濡れるから』
標準語のイントネーション。Kさん、緊張したりするとそうなるみたいです。
また歩き出しました。
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