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恐ろしいぐらいの、無味乾燥な日々が過ぎていきました。
学校はギリギリの成績で進級できましたが、僕はすっかり元気を失くしてしまっていました。
勉強も捗らず、もともと無趣味な僕は若さを発散させるなんて術もあるはずなくただぼんやりと毎日を浪費するばかりでした。
一部の女子からは、『大人びた』とか『哀愁を感じる』とか言う向きがあったようですが、勿論僕には聞こえるはずもありませんでした。
脱け殻または生ける屍。そんな風でした。
そうこうしているうちに春休みがやってきました。
ある日の夕方、僕は何の感興もなく駅前を歩いていました。
アルバイトをしてた居酒屋さんはほとんど無意識に避けて通り、用事もないのにスーパーに入りました。
ただブラブラと店内をうろついていました。
お惣菜のコーナーに来た時でした。僕は心臓が止まりそうな気がしました。
Kさんがそこにいました。
Kさんは目立たない背広姿で、フライのパックを手に取りにらめっこ。カゴの中にはビール、じゃなくてお茶のペットボトル?
よく見るとKさん、随分痩せて見えます。
いえ、ゲッソリと痩せていました。
表情はいつものむっつりですが、心なしか少し寂しそうな、元気がなさそうな気がしました。
涙が出てきそうでした。駆けていきたいとも思いました。
でも、僕にはそんな勇気はありませんでした。
品定めが終わったのか、Kさんが動き出しました。僕は慌てて棚の蔭に隠れました。
Kさんはそのままレジへ。どういう訳か僕はその背中を追ってフラフラと歩き始めました。
日曜毎に通った、見慣れた道。いつもは楽しく、少し恥ずかしい道中でした。
この時は…よく覚えていません。
ただ、あの大きな背中を見失うと全てが終わってしまうような気がして…。
やがてKさんのアパートに着きました。Kさんは二階のお部屋へと上がっていきます。
その時、僕の胸の内に『クソ度胸』と言ってもいいぐらいの勇気が湧いてきました。
駆け出すと一心不乱で階段を昇りました。けたたましい鉄板の音にKさんが気付いたのか、僕の方を振り向きました。
僕はKさんの一歩手前で止まると、ただ真っすぐにKさんを見つめました。
動悸が激しいのは、走ってきたからだけではなかったはずです。
言葉は詰まって出てこず、体は動きを止めたまま…ただ、大好きな人を見つめていました。
Kさん、びっくりしたような顔で僕を見てましたが、やがて満面の笑みを見せました。それはこれまで見たことのなかった、ひどく優しくてあったかな笑顔でした。
『よっ!』
軽く手を挙げ、居酒屋さんで見せるいつもと変わらない挨拶。
その刹那に僕は大声で泣きながらKさんの胸に飛び込みました…。
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