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【239】昔の話 直紀 09/8/30(日) 16:18
【240】昔の話 2 直紀 09/8/30(日) 18:57
【241】昔の話 3 直紀 09/8/31(月) 7:59
【242】昔の話 4 直紀 09/8/31(月) 12:20
【243】昔の話 5 直紀 09/9/1(火) 19:40
【244】昔の話 6 直紀 09/9/1(火) 22:01
【245】昔の話 7 直紀 09/9/2(水) 8:49
【246】昔の話 8 直紀 09/9/2(水) 12:15
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【248】昔の話 10 直紀 09/9/5(土) 17:48
【249】昔の話 11 直紀 09/9/8(火) 15:43
【250】昔の話 12 直紀 09/9/8(火) 23:49
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【255】昔の話 13 直紀 09/10/4(日) 1:34
【256】[管理人削除]
【257】昔の話 14 直紀 09/10/7(水) 3:50
【258】昔の話 15 直紀 09/10/13(火) 22:42
【268】昔の話 16 直紀 10/11/20(土) 0:41
【269】昔の話 17 直紀 10/11/20(土) 1:30
【270】昔の話 18 直紀 10/11/20(土) 14:18
【271】昔の話 19 直紀 10/11/20(土) 22:57
【273】昔の話 20 直紀 10/11/23(火) 1:16

【239】昔の話
 直紀  - 09/8/30(日) 16:18 -

引用なし
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   失恋とはちょっと違うかもしれませんが…僕が高校生の頃、10年位前の話です。

僕はお父さんを小さい頃に亡くしていて、当然生活は貧しかったです。
お母さんは一生懸命働いてくれ、高校まで入れてもらえました。
愛情は人一倍注いでもらえてたと思います。
ただ、お父さんがいないことは僕の心のどこかで澱みのように溜まっていたのかもしれません。

高校一年の夏休み明け、僕はアルバイトを始めました。家計を助けるためと、社会勉強のために週四日。場所は近所の居酒屋さんで、夕方から11時までのお仕事でした。
僕は鈍臭くて、注文を取り違えたりとかいつもでした。でも、店長さんとかみんな優しく接してくれて、お仕事するのが楽しかったです。

『あの人』が来たのは、ちょうど秋の真ん中ぐらい、平日の開店時間と同時でした。

『いらっしゃいませー』
お店の人や僕の声に迎えられて、その人は真っすぐにカウンターに座りました。僕がすぐに伺うとその人は『生大』と言いました。
『ごめんなさい、中しかないんです』
僕が告げると『あ、そ。じゃあ中でいいや』と返してくれました。
普通のサラリーマンかな?ただ、背が高くて体付きも野球選手みたいな感じでした。年は30代ぐらいに見えました。
生中をお持ちするとその人は『お』と短く答えて、一気に干してしまいました。『うしっ!』って口を拭い『おかわりね』とジョッキを僕に返してきました。
呆気にとられてる僕を傍らにさっさとメニューを見はじめると『なんかオススメとか、ある?』と聞いてこられました。何となく、関西弁のイントネーションでした。
『あ、ごめんなさい。僕、ちょっとわからないんで…』
『あ、そ。じゃあ大将に聞いてくれる?』
とお通しに手を付けはじめました。
僕は厨房の店長さんのところにおかわりの生中を取りに行きました。
するとお客さんの声が。
『このイワシ、うまいねー!』
『あ、ありがとうございます』僕はおかわりを持ってカウンターへ小走りに行きました。お客さんは一口飲まれましたが、それだけでもう半分なくなってしまう飲みっぷりでした。
飲み食いが好きなんでしょうね、店長さんと色々話して次々と注文されてました。そのうち、他のお客さんが来られたので僕はそっちの応対にまわり、カウンターのお客さんは店長さんに任せっきりになりました。それでもおかわりをお持ちするのは僕の役目ですからちょこちょことカウンターの方へは行きました。
ほんとにすごい飲みっぷりでした。ビールなんてほとんど水みたいで、お料理も結構食べられます。それで全然酔ってなくて、同じ調子で『お』『お』と受け答えしては飲み、食べる。
『お客さま、なんか豪快ですね〜』思わず声をかけてしまいました。
『そうか?…まあ、食うこと好きやからね。…君、高校生?』
『あ、はい』
『頑張りな?君みたいなん俺、好きやぞ』
何か気恥ずかしくなりました。

結局、そのお客さんは一人分には高いお代を払って帰っていかれました。

僕は少し誉められた気がして嬉しくて、気持ち良くその日を終えました。


それから一日おいて、お店に僕が入ると店長さんに言われました。
『おとといのお客さん、昨日も来てくれたよ』
『そうなんですか?』
『君のこと、誉めてたよ。挨拶がきちんとできて、ハキハキ受け答えができる、今時の子には珍しいな、捨てたもんじゃないな、ってね』
『は、はぁ』
『また来るってさ。すごく気に入ってるみたいだから相手してやりなよ。よく食べてくれるしね』
『あ、はいっ、頑張りますっ』
僕は当たり前のことしかしていないのに、こんなに誉めらるなんて思いもしませんでした。

その週末、あの人はやってきました。店内は混み始めてましたが、僕の姿を見て笑って見せると『よっ』といつものカウンターに座りました。『生中ね』と言われましたが、店長さんが遮りました。『お客さん、どうせ牛みたいに飲むんだから大で出しますよ。…直紀、お出ししな。注げるだろ?』
真新しい大ジョッキに生ビールをなみなみ注いでお持ちすると、『お』ではなく『や、ありがとう』と受け取ってくれました。一気に半分近く飲んでしまいました。
『相変わらずいい飲みっぷりですね』僕が言うと、
『こら、ナマ言ってんじゃない。それより直紀、これお出ししな』店長さんからのサービスでした。
この人は行くお店お店ですぐに常連さんになるんだろうな、むっつりに見えて案外人懐っこいのかな、なんて思いました。
それからお店は満員になり僕もあっちこっちと忙しく飛び回りました。ただ、違うのは『直紀、カウンターにな』『おい、直紀、カウンターさんお呼びだ』とあのお客さんの専属みたいに使われたことでした。お客さんもオーダーの時に僕を探してるみたいで、可愛がって頂いてるんだな、何となく嬉しかったです。

そんななか、僕はオーダーを間違えるミスをしてしまいました。
お客さんはすごい剣幕で、主任さんが対応しても許そうとしないばかりか、料金を払わないとまで言い出します。
僕は小さくなってただただ頭を下げるだけでした。
『やかましなぁ』そこに立っていたのは、カウンターのあの人でした。
『こんな子供のヘタ一つにワーワー言いなさんな。一生懸命謝ってるやんか』
『何だ、この野郎』
『もうえーから。オッサン酔っとるし、俺が払ったってもええから、もう帰り』『やんのか、こら』
『帰れ』
最後の一言は静かだけど、何となく恐ろしい威嚇がこもった『帰れ』でした。酔ったお客さんはしばらく睨み付けてましたが、色々捨てゼリフを残して出ていかれました。
他のお客さんから拍手喝采が起きました。あの人は主任さんに『すんません、いらんことして』とお金を渡してました。
僕はいても立っていられなくて、その場で泣きだしてしまいました。
『大将、ちょっとよろしいか?』
『頼みます』
僕はお客さんと外に出ました。

路地裏で僕は泣き止めず、お客さんはただそれを見守るだけ。ようやく、治まってくるとお客さんが言いました。
『えらいな、直紀君は。ちゃんと誠意を込めて謝れるやね。ほんま、えらいな』僕は何か言おうとしたけど言葉になりませんでした。『泣くな、ほら。男前が台無しやぞ?』
男前なんて言われたことなかった。『見栄晴』なんて言われることが多かったから、美少年じゃないはずでした。
『僕…』
『なに?』
『僕、男前じゃないです』言ってしまうと何となく心に余裕ができて、ちょっとだけ笑顔を見せることができました。
『そーや、その顔だよ』
お客さんは僕の髪をクシャクシャとしてくれました。『うしっ!飲み直しや!大将に言うて芋、キープ入れてくれ!』

その日、僕はボトルのカードでお客さんの名前がKさんというのを知りました。

Kさんはそれからも何度となく、お店に来てくれました。僕を我が子か弟のように可愛がってくださるKさんを僕は慕い始めていました。
それは今思えば恋心だったのでしょうか。
家庭の事情からもあったかもしれませんが、同性愛なんて知らなかった僕の胸に芽生えた、かすかな感情でした。

【240】昔の話 2
 直紀  - 09/8/30(日) 18:57 -

引用なし
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   年の暮れが近づいたある夜、Kさんが来ました。

いつもお越しになる時間よりかなり遅い時間でした。珍しく酔っている様子で、『よぉ』と声を掛けてくれましたが、何となく機嫌がよくありませんでした。
『どうしたんですか?』
『何もないよ。生、くれ』生大をお出しすると、いつもと違い一口だけ飲んで置いてしまいました。
『大丈夫、まだ飲まれてへんよ』
『らしくないね。何か出そうか?』
『すんません、適当に頼んますわ』
宴会のお客さんが帰ったあとなので、お店の中は結構落ち着いてました。僕は片付けとかしながらKさんの様子を見守っていました。ただ黙々とお料理を食べ、チビチビと生ビールを飲む後ろ姿はすごく寂しそうでした。
僕に何かしてあげられることはないかな、と思いましたが何もなさそうでした。
『おおーい、直紀!』
突然、Kさんが声を上げました。いつもなら君付けなのに今日に限って呼び捨て、少しびっくりしてるとKさんが座ったまま僕の方に向きました。
『俺、お前のファンやで!ほんま、可愛いヤツや、お前は。今度、デートしようや!』
酔っ払いの戯言、でも、僕にはそう聞こえませんでした。
『Kさん、酔ってるよ。直紀は男の子だよ。ほら、お茶漬け出してやるから、今日はもう帰んなさいよ』店長さんが困惑顔で言いましたが、僕は呆然としたままでした。
『直紀、これ』
店長さんに呼ばれてハッとしました。Kさんのためのお茶漬けが出てきました。僕はすぐに受け取らず、レジへと走りメモをちぎってメッセージを書き付けました。
『直紀!』
『あ、はい、ごめんなさーい』
僕はお茶碗の下にメモを忍ばせてKさんの前に置きました。
『ごめんな、これ食ったら帰るわ』
『気を付けてくださいね』僕はKさんのそばを離れました。
『すみません、店長。ちょっとお手洗い行きます』


次の日、僕はお母さんに嘘をつきました。『バイトあるから』と。
僕は制服の上にコートを羽織って駅の改札に立ってました。
『僕でいいですか?明日、七時に駅で待ってます』
Kさんへのメッセージはそう書きました。
僕の、精一杯の勇気のつもりでした。
いつも可愛がってくださるけど、Kさんは僕に特別な感情なんてないだろう、でも、もう自分の気持ちに嘘をつけませんでした。
来なかったら今日一晩思い切り泣いたらいいんだ、それで明日からまた頑張ればいいんだ、Kさんも僕の顔なんて見たくないだろう。風は冷たく、待つ心は切なくて辛かった。ネガティブな思考がどうしても先立つ…。
ポンと肩を叩かれました。顔を上げると、Kさんの大きな体。『よっ』といつもの挨拶だけど、少しバツが悪そうな表情でした。

涙が溢れてきました。
『どないしたん?』
『来てくれないと思って…もう会えないと思って…』『大げさやなぁ。泣くなよもう…』
僕の心に灯りがついた瞬間でした。

二人で暗くなった公園を歩きました。
お話するでもなく、ただ歩きました。
僕はそれだけで幸せに思えたのです。そして、Kさんが好きなんだと、はっきり確信しました。
その好きな人というと、真っすぐ前を見つめて、いつもと変わらないむっつり。昨日のことは冗談だったのかな?でもいいや、今すごく心地いいから…。
僕はKさんのコートの袖をギュッと握りました。本当は腕を組みたかったけど、ふしだらな子と思われたくなくて、やめました。
Kさんがふと立ち止まりました。『座ろか?』

僕がベンチに腰掛けると、Kさんが缶コーヒーを買ってきてくれ、投げてよこしてくれました。隣に座るとタバコに火を点け、コーヒーを一口飲みました。
僕は缶コーヒーをカイロ代わりに両手でもてあそんでいました。
何にも会話はなし。

『昨日のことな…』
最初に口を開いたのはKさんでした。
僕は思わず体を固くしました。いきなり核心なんて思いもしませんでした。
『あれな、嘘とちゃうよ。今日、会えてよかったよ』そう言ってタバコを吹かしました。
『過去形、なんですか?』『あ?』
『僕のこと、どう見てるんですか?弟?子供?』
また沈黙に戻ってしまいましたが、やがて深いため息をつきました。
『…最初見た時から可愛いと思ってるよ。可愛いてしょうがないわ』
缶を持つ僕の手にKさんの大きな手がかぶさってきました。
『…で?』
『だから。…好きなんやって。…あー、くそ!何言うてんねん!』顔を赤くするKさんがおかしくて、僕は思わず笑ってしまいました。
『笑うな。大人をおちょくんなや』
『僕も、好きだよ。大好きです』
自分でもびっくりするぐらいスラスラと告白の言葉が出ました。
『…いいの?僕で?きれいじゃないし…ほんとに?』真剣に聞きました。
『何言うねん。充分可愛いやないか。…君こそ、こんなオッサンでええんか?』『素敵だと、思います』
次の瞬間、僕は抱き締められました。
『ありがとう。…仲良くしよな』
『…うん』
そこからキスへはごく自然にすすみました。唇を重ね合わせるだけの軽いのだけど僕には大きな第一歩。
ゆっくり体を離すとKさんが立ち上がりました。
『お腹空いたやろ?ラーメン食いにいこか?』
『はいっ』

僕らの関係が始まった瞬間でした。

【241】昔の話 3
 直紀  - 09/8/31(月) 7:59 -

引用なし
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   僕らの逢瀬はKさんがお店に来た閉店後のほんとに短い時間か、アルバイトのない平日の夜ぐらいでしたが、そんなでも僕は嬉しかったです。
Kさんは僕の話をなんでも聞いてくれました。いじめられたりしてないか、勉強大丈夫か、なんて気に掛けてくれました。
Kさんも色々お話してくれました。
Kさんは31才の公務員さんで二年前に四国から東京に転勤してきたそうです。何かたくさん転職歴があるそうで、自嘲気味に『根無し草や』なんて言ってましたけど。小学生の頃はいじめられっ子だったなんてこともお話ししてくれて、僕もそうだったから親近感がますます涌いてきたりしました。他にもどうしてゲイになったのかなんてことも…付き合ってた女の人にひどい裏切られ方をしたそうです。
ほんとに公園をお散歩しながらの、何も代わり映えもないデートでしたが、帰り間際に抱き締めてもらって、キスしてもらえる時が何よりも幸せな時間でした。

【242】昔の話 4
 直紀  - 09/8/31(月) 12:20 -

引用なし
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   『今度、どっか出掛けよか?もうすぐ春休みやろ?』Kさんがそう持ちかけてきたのは三月のある夜、雨の日でした。
『え?』
『どうかな?たまにはええやろ』
それは願ってもない提案でした。公園だけじゃつまんなくなってきてたし、それに…もう少し進展したいと思ってたので…。
『うーん。どうしようかなぁ…』真意と裏腹に、ほんの少しの悪戯心でKさんを焦らしてみようと思いました。
『なあ?好きなとこ連れてってやるから…』
『そーだなぁ…』
Kさんがおねだりする子供さんに見えて、おかしかった。
『こら、直紀!お客さまに呼ばれてるのいいことにサボってんじゃないぞ』
『ごめんなさーい。…考えときますねっ』
僕は洗い物をしにKさんの許を離れました。

お仕事が終わって外に出ると、いつものようにKさんが待っててくれました。
雨はまだ止んでなくて、二人で傘を差し、並んで歩きました。
公園に入って人目がなくなると、Kさんが手を握ってくれました。僕は傘を畳むとKさんの大きな傘の下に…ぴったりと寄り添いました。
『…甘えん坊。濡れるぞ』Kさんが優しく肩を抱いてくれました。
二人で相合傘。なんかすごくロマンチックに思えました。
僕は足を止めてKさんの胸に顔をうずめ、目を閉じました。
『お、おい』
『ごめん…。しばらくこうしてて…』
今考えたらすごく恥ずかしいけど、このまま死んじゃってもいい、なんてさえ思いました。
Kさんはそんな僕の髪を撫で続けてくれました。
『さ、濡れるから』
標準語のイントネーション。Kさん、緊張したりするとそうなるみたいです。
また歩き出しました。

【243】昔の話 5
 直紀  - 09/9/1(火) 19:40 -

引用なし
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   公園の、いつもの休憩所のベンチに腰掛けお話。会話の内容なんて、いつもと変わらず学校のこととか、Kさんのお仕事のこととか…なんかトラブルの多い特殊なお仕事みたいです。いつか僕を助けてくれた時のあの押し殺した威圧感のある『帰れ』の一言。あれはKさんのお仕事に関係してたのかもしれません。
僕は僕で、クラスメイトから最近明るくなったね、女子がなんか噂にしてるよ、って言われたなんてことを話しました。
『頑張ってるしな、直紀君は。もともとガラ小さいし可愛いし、ほっとかんやろう、女の子も』
『やだなぁ。背丈のことは言わないでください。…あと、あんまり可愛い、可愛いって言わないで…恥ずかしいから…』
『あははは…』
ありきたりだけど楽しい一時でした。

『さっ、帰ろうか?』
Kさんが立ち上がったので僕も立ちました。
ギュッと抱き締められ、キス。ただ、いつもと少し違いました。
力強くて、時間が長い…まるで貪るように唇が合わされました。僕はそのまま休憩所の柱に押しつけられました。
Kさんの右手が僕の頬や髪を撫でました。そうしてからKさんの舌が…僕の口の中へ…。
息が詰まりそうで、強く抱き締められてて苦しくて…でも、これまでに経験したことない、甘美な感覚でした。
僕はその感覚に身を委ねていました。
いつの間にか、Kさんの左手が腰に廻されてました。体の線を確かめるかのように、ゆっくりと撫でられると僕は思わず小さな喘ぎ声を漏らしてしまいました。右手はしっかりと僕の肩を抱いていましたが、唇が離れるのと合わせて、すうっと胸に移ってきました。
『あ…』
もう何をされても受け入れられる心持ちでした。
Kさんの右手は胸から次第に下の方へと…左手は背中を撫でていたかと思うと腰へ、とうとうお尻に…。
『あ、あん…』
涙がつーっと頬を伝うのがわかりました。恥ずかしさからではなかったと思います。
突然、Kさんが僕を突き放すようにして体を離しました。少し離れると、急いでタバコを取出し所在なさげに吹かし出しました。
『ごめん。…どうかしてたよ。…最低だな』
標準語でした。僕は自分を恥じるような、そんなKさんの後ろからしっかりと抱きつきました。
『…ドライブ、行きたいな、今度。…遠くに行こ?』
その夜、僕はなかなか寝付けませんでした。
Kさんに体を触れられたことを思い出し、股間を膨らませている自分がそこにいました。
僕はパジャマを脱ぎ捨て、Kさんに愛撫されていることを思い浮べ、何度も自慰に耽ってしまいました。

【244】昔の話 6
 直紀  - 09/9/1(火) 22:01 -

引用なし
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   春休みに入った土曜の朝。

家の最寄り駅からふたつ離れた駅前で待ち合わせ。

前の晩はどんな服を着ていこうか、何か持っていこうか、なんて悩みながらもうきうきした気分でした。
結局はGパンにピンクのダンガリー、薄手のパーカーなんて何の変哲もない格好でしたけど、下着は新しいものを着けていきました。…理由は、もちろん…。

四駆の車が僕の前に止まりました。下りてきたのは、Kさんです。茶色系のジャケットにくすんだオレンジのシャツ、落ち着いた感じの服装でした。
『よっ』いつもの挨拶ですが、今日はなんだか楽しそう。
『おっきな車ですね。Kさんの?』
『レンタカーやよ。俺の給料やとこんなん買われへんわ』
『お店に来るの減らしたら?いつも飲みすぎ、食べ過ぎですよ』
『いや、それは譲れん。…制服姿もええけど、私服も可愛いな』
『よしてくださいよぉ。…ありがとっ』
短いやりとりの後、二人で車に乗り、出発しました。

『朝ごはん、まだやろ?マクドでよかったら食べり』『あ、ありがとう』
行き先なんて決まってません。とにかくどこかへ。
Kさんが音楽を掛けてくれました。クラシックです。『こういうの、聞くんですか?』
『嫌いか?』
『ううん。ちょっと意外かな、って』
『実は元ブラバンやねん。賞取ったこともあるで』
『うわ。すごい意外!』
『…君なー。俺をどんな風に見てんねん?』
『え?だってどう見ても体育会系じゃないですか』
『あのなー』
車の中、お話が弾みます。
高速道路に乗って南の方角に走ります。
『船、見にいこか?』
『船?』
『案外、ええもんやぞ』
横浜の方に行くみたいでした。

横浜に着いてからは、車で港のあちこちを見て回ったり、潮風に当たりながら海を眺めたりして過ごしました。
Kさんは海とか船とかがほんとに好きみたいで、子供さんみたいにはしゃいでました。
『俺、ほんまは船乗りなりたかったんやけどなー』
タバコを吹かしながら海を見てるKさん。春の日差しに波がキラキラしてます。僕も隣で遠くをゆっくり進む白い船を眺めました。
暖かな、平和な時間。それを二人で共有しているのがなによりも幸せでした。

それからは、市内の散策に出掛けました。山下公園や外人墓地など、いわゆる定番ですね。
中華街でお昼。お茶は僕にはちょっと苦かったけど、おいしいものを色々食べて満足でした。

それから夕方まで色々歩き回り、横浜をあとにしました。

本当に楽しい一日でした。

【245】昔の話 7
 直紀  - 09/9/2(水) 8:49 -

引用なし
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   車は東京へ向かって走ります。

『疲れたか?』
『…ちょっと』
『道、混みそうやから寝とき。後ろで横なるか?』
Kさんはいつも僕を気遣ってくれます。
『ここでいいです』
僕はそっとKさんの左手に手を重ねました。Kさん、それを握り返してくれました。
『戻ったら車返してくるから晩ごはん行こか?』
僕の手を離しハンドルを握り直すKさん。
僕は答えず、狸寝入り。
『…寝たんか』
それきり黙り込んでしまいました。
僕はそのままほんとに眠ってしまいました。

目が覚めた時、車はもう都内に入っているようでした。あくびをしたら、Kさんが『おう』と言いました。『よう寝てたなぁ。寝顔、かいらしかったぞ』
『もう…そんなことばっか言って…』
『ははは…。もうすぐ着くからな。車、返してくるから…』
『あのっ!』あわててKさんの言葉を遮りました。
『なに?』
『僕、今日…母に言ってきたんです。…お泊りするって、友達のとこに…』
Kさんは黙り込んでしまいました。僕もそれ以上何も言えませんでした。

『…自分が何言うてるか、わかってるんか?』
『…』
『よう考えよ?』
『…大丈夫です』
『…そうか…』

やがて車は駐車場に入りました。郊外のビジネスホテルでした。

【246】昔の話 8
 直紀  - 09/9/2(水) 12:15 -

引用なし
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   ホテルの一階で軽い夕ごはんをしました。
僕はカレー、Kさんは唐揚げとかおつまみみたいなのにビール。
会話はありません。このあとの事が心の中を占めていたのでしょうか。
『…僕も、ビール飲もうかな…』
『あほ。子供はあかん』
『僕だって仕事してるもん、子供じゃないです』
『それは別。子供は子供』何となく噛み合わず、たまダンマリに。

『部屋、行こか?』

僕らはレストランから出ました。

部屋はツインでした。宿泊カードは親子で書いたので当然でしょう。
胸がドクン、ドクンと高鳴るのを感じました。
ベットを見つめていると、これから始まることを思い浮べてしまい、体が固くなってきました。
そんな僕をKさんが後ろからぎゅうっと抱き締めました。
『直紀…』耳たぶを軽く噛まれました。体に電気が走る感じ…。
Kさんが僕の体を軽々と抱き上げました。そしてベットの上へ…。
ゆっくりと服が脱がされました。震えが止まらず、ただ目を閉じて受け入れました。
『…こわいか?』
僕は頭を振りました。
『やめてほしくなったら、言えよ?』
『大丈夫です…』
やっと声が出せました。
僕はパンツと靴下だけの姿にされてしまいました。
『電気、消そうな?』
Kさんが言うのを僕が止めました。
『…ちゃんと僕のこと、見てください…』
『うん?』
『汚くないですか?僕の体…』
『…汚いもんか。白くって、柔らかそうで…可愛い体付きだよ。…きれいだよ』Kさんがキスしてくれました。
濃厚なディープキスから、頬や耳、首筋へとKさんの舌がはい回ります。同時に胸を揉みしだくように撫で回されました。僕はグッと唇を噛んでました。
『がまんしなくていいぞ。声、出してもいいんだよ』優しく囁いてくれました。やがて舌が胸に…乳首を転がすように舐められ、思わず喘ぎ声が…。右と左を交互に攻められ、脇まで舐められると僕は絶叫に近い声を上げました。
『感じてるのかな?』
Kさんの舌はさらに下の方へと…体をひっくり返され背中も…手と舌とで僕の体の隅々まで愛撫してくれます。
僕はもう、狂ったように身を捩り、喘ぎ続けるばかりでした。
パンツの上から大事な場所の形をなぞるように、優しく触られると、それだけで出してしまいそうでした。『もう勃ってるね』
Kさんの舌が下半身へと移りました。
『…そこ…、汚いよ…そんなとこ…』
喘ぎ喘ぎ何とか声に出しましたが、Kさんは何も答えずに僕の足を大きく開かせました。
股ぐらの部分、太ももの付け根あたりを執拗に攻め立てられました。

【247】昔の話 9
 直紀  - 09/9/3(木) 11:27 -

引用なし
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   俯せにされると、背中を舐められながら胸とお尻を撫でたりしてくれました。
『パンツ、脱がすよ?』
僕の答えを待たずにKさんの手が白いブリーフをゆっくり脱がしました。
『直紀のお尻、まあるくて可愛いよ』
両手で撫で回わされたり、揉まれたり、そのうち舌が…。お尻の割れ目に沿ってつうーっと…。
『もっと奥まで見せてくれ…』
ぐいっとお尻を持ち上げられました。優しくですが、左右に広げられるのがわからます。
『…やだ…。そんな汚いとこ…見ないで…』急に恥ずかしくなりました。
『綺麗なお尻の穴してるよ…ちっさくて可愛いな』
Kさん、僕のお尻の穴を舐め始めました。
生まれて初めての感覚でした。こんなところをいじくられるのが、こんなに気持ちいいなんて…僕は完全に虜にされてしまいました。再び仰向けにされると今度は前の方に…。
『綺麗な形だね。ちゃんと剥けるんだ?』
いきなりくわえられてしまいました。
『ああーっ!…ダメ、ダメぇ!出ちゃうよ、出ちゃう!』
Kさんは無視して僕のをしゃぶり続けました。しゃぶるのを止めると今度は手で…僕はあっという間に射精してしまいました。
Kさんは僕の肩を抱き、お腹の上に飛び散った僕の精子をのばすように撫でてました。
『…恥ずかしいか?』
『…少し。…でも、気持ちよかった…』
『そうか』
Kさんが腕枕をしてくれました。
『Kさん、ずるい』
『何が?』
『僕だけ裸にして…』
『はっはっはっ…』
頭を軽く叩かれました。
『いや。…脱いでまうとこれ以上いってしまいそうでな…。いくらなんでも直紀にそんなことでけへん』
暫く沈黙が流れました。
『…僕、大丈夫です。…最後まで頑張ります』
『いや。頑張るとか、そんなんとは…』
『…お願い。僕、もう…』

【248】昔の話 10
 直紀  - 09/9/5(土) 17:48 -

引用なし
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   Kさん、少し考え事をしてる風に天井を見つめてました。
僕の上にかぶさるようにすると、前髪を軽く分けてくれ、頬を優しく撫でてくれました。
『…ほんとに、いいんだな?』
さっきから関西弁と標準語のチャンポン、Kさんも緊張してるみたい。
『…うん…』
一線を踏み越えてしまうことだと、僕にもわかりました。
でも、もうどうにも気持ちが抑えられませんでした。『いいんだな?』
もう一度聞かれて、僕は強く頷くだけで答えると目を閉じました。
Kさんが服を脱ぐ気配。
次いで力強い抱擁、それからキス…。
素肌の触れ合う感触。
頭の奥がジンとして、気が遠退くような、うまく言えないけどそんな感じがしました。
それからの愛撫は、さっきよりも濃密で、愛されてるという気がして、どんな姿態をとらされても、恥ずかしいなんて思いませんでした。
くすぐったさは性感へと変わり、脳髄のどこかで何かが融けだしていく感じがしました。
『…指、入れるぞ?』
僕のお尻の穴を揉み解すようにしていた、Kさんの指にグッと力が入りました。『…う…あ…』
ずずーっていう感じでKさんの指が僕のお尻の中に入ってきました。
『大丈夫か?』僕は頷きました。不思議なぐらい、痛みはありませんでした。
Kさんの指がゆっくりと僕の中で動いてます。
下半身はもう痺れたようになってるのに、そこだけは全神経が集中してるかのように僕の脳に刺激を伝えてきます。
『直紀、感じてるのか?…チン〇ン、勃ってるぞ?』『…わかん…ないよっ…』やがて、Kさんの指が抜かれました。
バスタオルを僕のお尻の下に敷いてくれました。
『途中で嫌になったら言えよ?』
僕の両足が大きく、M字に開かれました。

【249】昔の話 11
 直紀  - 09/9/8(火) 15:43 -

引用なし
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   お尻の穴にグッと圧迫感を感じました。指とは明らかに違う、太く熱い感触。
『お尻、力抜いて…。口開けて、ハァーってしたらできるよ』
指でお尻の穴を開きながら挿入を試みてるのがわかります。僕は言われたようにしてみました。
『…!あっ、う…い、たい…!』
鋭い痛みが走り、僕は両手でKさんの腰の辺りを強く押し返そうとしました。
体が自然と枕元の方へずり上がります。
Kさんはそれに合わせてやはりずり上がり、また挿入を試みます。
『痛い…よぉ…』
二、三度同じ事を繰り返しましたが、僕が逃げてしまうので入れられないみたいです。
『…やめよか?痛いんやろ?』
Kさんが言ってくれました。正直、少し後悔してました。
でも、ここで逃げたらKさんに嫌われるかも…少なくともその時はそう思い込んでました。
『…ごめんなさい。…頑張るから…続けて…』
『…わかった。ゆっくりしたげるからな…』
Kさんの手が僕の体を撫でててくれてます。
痛みの後では心地よさも格別でした。
『…また、勃ってきたな。…ちょっとだけ我慢してみようか?』
再びKさんのチン〇が僕のお尻にあてがわれました。さっきと同じ強い痛み。
僕は必死で息を吐き続け、受け入れようとしました。Kさんも愛撫の手を休めずに僕の苦痛を取り除こうとしてくれているようです。メリメリという風にお尻の穴がこじ開けられるのを感じました。
ガバッと、Kさんが僕の体を抱き締めました。
同時にニュルンとした感触でお尻の中に太いものが入るのを感じました。
僕は絶叫をあげ、Kさんにしがみつきました。爪を立てたかもしれません。
頭の中が真っ白で、息さえできない…そんな感じでした。
かなり永い時間が経ったように感じました。
『…大丈夫か?』
僕の体を抱き締めたままKさんが言いました。
『…うん。…入ったの?』『入ったよ。…頑張ったね、なお』キスしてくれました。
『…ちゃんと直紀、って呼んでください』
僕はほとんど無意識に二人の結ばれた場所を探してました。それを察したのか、Kさんの手がそっと導いてくれました。
『…ほんとだ…入ってる…Aさん(Kさんの下の名前)のが…』
涙が出てきました。
『これで、僕たち、恋人なんだよね?』
『…あほぬかせ。もともと恋人同士やろが』
『…離れないよ、もう。…僕だけのKAなんだからね…』
『…こわっ。…わかってるよ。俺も直紀のこと、大事にするからな』
ひどく甘美な時間が二人を包んでいるような気がしました。
『…じゃ、動かすよ?早く終わるようにするからな』『うん、もう大丈夫』
Kさんは僕に負担を掛けないようにゆっくりと動かしてくれました。
痛みなんかはもう全然なくて、愛撫も加えながらだから、僕はずっと喘ぎ続けてたに違いありません。
Kさんは僕の中に精を注いで終わったみたいでした。僕はKさんが終わるまでに何度も出してしまったようで、終わった後ではもうグッタリしてて、そのまま眠ってしまったようです。

頬を軽く叩かれて目を覚ますと、ホテルの浴衣を着たKさんが反対側のベットに座って笑ってました。
『ほんま、気持ち良さそうに寝るなぁ、直紀は』
目をこすりながら起き上がると僕はまだ裸。急に恥ずかしくなって、被せてあった布団を慌てて羽織りました。
Kさんがすっと缶を差し出してくれました。
『下の食堂で、君の事、子供て言うたな?…取り消すわ。…直紀は大人や』
缶ビールでした。
『お祝い。…一本だけやで?』
僕はしばらく缶ビールを見つめてましたが、開けることに躊躇はありませんでした。
『乾杯』
缶を軽く突き合わせて、一口飲んでみました。
苦い、でも何よりもおいしく感じました。
ビールと乾き物だけの晩酌、ちょこっとだけ大人になった気がしました。

次の朝、まだ明け切らないうちに僕たちはホテルを出ました。
春の早朝はまだ肌寒くて、それでも顔を見せ始めた陽の光は暖かみをもって、僕たちを金色にしてくれてました。
何もかもが輝いて見える、素敵な日曜の朝。

これからいいことばかりが起きる、そんな予感がしました。

【250】昔の話 12
 直紀  - 09/9/8(火) 23:49 -

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   僕たちの逢瀬はそれからも続きました。
ただ違うのは、エッチなことが加わった、っていうこと。
公園デートの時は帰り際に身障者用のトイレに入ることが多くなりました。
初めて結ばれた日以来、僕は自分がこんなに淫らな子だと思いませんでした。
僕からせがむことが多かったのです。
そんな時はKさん、僕のズボンとパンツを下ろし、僕の体じゅうをいじくりながらチン〇を扱いてくれました。
逆にKさんが求めてくる時は、僕をパンツ一枚にして可愛がってくれました。
セックスはなし。Kさんは僕にチン〇を舐めさせたりとかはさせず、いつも自分で扱いてました。最後は僕のお尻に精子をかけてましたけど…。

日曜日はKさんの家に行くようになりました。
古ぼけた六畳と四畳半のアパートでしたが、僕の家も似たようなものなので気になりませんでした。
朝に訪ねていって、Kさんが疲れていない時はどこかへ出掛けました。
下町の方が多かったです。Kさん、浅草が好きみたいで、よく連れてってくれました。
花やしきで遊んだり、古道具屋さんを冷やかしたり、ヤクザ映画なんか見たり…あとはパチンコ、競馬…。僕よりKさんの方がはしゃいでる感じでしたが、渋谷とかに行くより楽しかったです。
『すまんなぁ。…ウマい洋食食わしたろ思うたのに…スッてもうたわ』
『もー。…Aさん、すぐ熱くなるから…』
『ほんま、すまん!』

Kさんが疲れてる時は家で過ごしました。
僕は少しでも自分を可愛く見せようと、いつも知恵を絞りました。
Kさん、僕の制服姿が一番好きみたいなので着ていってあげたり、体操服持っていったり…。
お店で簡単なお料理ぐらいは覚えていたから作ってあげたりしました。
Kさんの家で過ごす時は必ずセックスになりました。特に真新しいものはない、普通のセックス。
終わった後の銭湯が僕の一番好きな時間でした。
『直紀、おいで』
呼ばれて湯槽から上がるとKさんが背中を流してくれました。クシャクシャと髪も洗ってくれました。
『今度はAさんねっ』
僕もKさんの背中を流してあげました。
銭湯の小さなサウナで我慢比べしたり、コーヒー牛乳のイッキ飲み勝負したり。『仲いいなぁ、ニイちゃんら。兄弟か?』
イレズミのおじさんに言われたりしてました。

洗面器片手に銭湯を後にする帰り道。

ひどく幸せな一時でした。

【251】[管理人削除]
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【255】昔の話 13
 直紀  - 09/10/4(日) 1:34 -

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   感想、ありがとうございます。

冗長な文章で申し訳ないですが、少しでも僕の気持ちをわかってもらいたくて敢えて書いてます。

あと何回かで終わりですので、どうかお付き合いください。


2年生の三学期の初めの事でした。

事件は起こりました。

アルバイトの帰りの寒い日でした。
Kさんは地方に出張でお店には来られず、日曜に会おうな、ってだけ約束してくれました。
わずか二、三日なのに僕にはそれがもどかしくて、少しでもKさんの面影を感じたくて一人で公園へ出掛けたのです。
冬の公園は誰もいなくて、風も冷たく、ひどく寂しく感じました。
一人で缶コーヒーを買って、いつもの休憩所に座ってKさんの事を思い出しながらぼんやりしてました。
『君、一人かい?』
突然声を掛けられて僕はびっくりしてしまいました。『高校生?こんな遅くに何してるのかな?』
四十代位のおじさんでしたが、派手な柄の服を着ていて何だか胡散臭く感じました。
『あ、あの…』
『いいんだよ。…アレなんだろ?』男の人は僕の隣りに強引に座ってきました。何となく危険を感じて僕が立ち上がろうとするのを、おじさんが無理矢理引き止めました。肩を掴まれ、抱き寄せられました。
『逃げなくてもいいって。…君、でかい兄ちゃんとよく一緒にいる子だろ?』
心臓が凍り付きそうな言葉でした。
『いつも幾ら貰ってんだい?おじさんもお小遣いあげるよ?』
いきなりズボンの上から股間を掴まれました。
僕は渾身の力でおじさんの手を振りほどきました。立ち上がって駆け出そうとしました。
『待てよ!』腕を掴まれました。かなりの力でした。『学校に言われても困るだろ?おじさん、そんな事はしないけどね。…ちょっと遊んでくれたらいいんだ。それでお小遣いだってもらえるんだから、悪くないだろ?』
僕は完全にウリの子だと思われているようでした。
『僕、そんなんじゃないです!放してっ!』
必死で逃げようとする僕の顎辺りを男がガシッと掴みました。
『でけぇ声出すんじゃねぇよ。…どっちだって同じだろうが。薄汚い少年売春夫のクセに!』
男はそのまま僕を身障者トイレへと押し込みました。
僕はすぐに脱がされてしまいました。コートも制服もトイレの床に打ち捨てられ下着は男の持っていたナイフみたいなもので切り裂かれました。
『おうおう。スケベそうな体してんじゃねぇか』
男は僕の胸にむしゃぶり付いてきました。乳首を噛まれて痛くてたまらない。お尻やチン〇も乱暴に触られ少しも気持ちよくない。
それ以前に強姦されることへの恐怖が先立っていたのかもしれません。
『どうだ?あの兄ちゃんにも色々してもらってんだろう?ココ、いじられると感じるだろ、え?』
無理矢理指をお尻の穴に突っ込まれました。
『痛い、痛いよっ!やめてっ!』
『嘘つけ。二本もくわえてるクセに』
洗面台のところに押さえ付けられ、お尻を突き出させられました。冷たくてヌルッとした感触。ローションか何かを塗り込まれたみたいでした。
『さあ、お前の一番欲しいのをやるぞ?』
お尻の穴に男のがあてがわれかと思うと一気に貫かれました。
『いやぁーっ!』
『うるさいな』
口にハンカチを押し込まれると髪を掴まれ顔を上げさせられました。鏡には眼を泣き腫らした自分の顔。正視できなくて思わず眼を反らしました。
『おおー。入り口が狭くていいケツじゃないか』
男はそのまま激しい抽送を始めました。

【256】[管理人削除]
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【257】昔の話 14
 直紀  - 09/10/7(水) 3:50 -

引用なし
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   はじめさん、丁寧な感想をありがとうございます。

話はこれから僕にとって一番辛かったところになりますが、頑張って続けたいと思います。


男は僕のお尻に腰を打ち付けながら、手で僕のチン〇をまさぐります。ローションを絡ませ、執拗に…。
『ほーら、マラも勃ってきたじゃねーか!この変態息子!』
Kさん以外の人に、それも無理矢理犯されている。
嫌で嫌でたまらないのに、まだ大人になりきれていない僕の体は悲しい程に正直でした。
勃ってしまったモノは男の乱暴な手で扱かれ、僕のはまだ刺激に弱く、すぐに出してしまいました。
『なんだよ、根性ねぇな!まあいいや!』
男は僕のお尻を犯し続け、チン〇を擦り立てるのもやめません。
やがて男はキチ〇イみたいな声を上げて精を放ちました。
Kさんは初めての時は確かに僕の中へ出しましたが、それからはちゃんとゴムを付けてくれてました。
なのにこの男は…。
おぞましいものを打ち込まれた気分でした。
『どうだ、俺のは?あの兄ちゃんとどっちがよかったかな?』
悲しさと情けなさでグッタリしている意識の中で、男の手がお尻を乱暴に割るのを感じました。
男の放った、キタナイ液体が太ももを伝っていくのが嫌でもわかりました。
『汚された』
なんの誇張もなく、そう思いました。
抗しがたい脱力感。僕はその時、お尻から何か重たいものが落ちていくのを感じました。
『汚ねえな!ウリにくるならちゃんと綺麗にしてこいよな!』
僕はウ〇コを漏らしてしまったのでした。
死にたいぐらいの屈辱でした。
Kさんとの時はもちろん綺麗にしてました。でも、この時はセックスなんて少しも考えてません。ましてやウリなんて…。
『まあいいや。…また小遣い欲しかったら、おいで。可愛がってやるから』
男は身仕度を直すと千円札を一枚、僕の顔の前に置いて出ていきました。


僕はこの夜以降、公園に行けなくなってしまい、アルバイトも無断で辞めてしまいました。

Kさんのとこへは行ってみました。
でも、自分の体が汚れてしまったのを知られたくなくて、ドアを叩けずに家に帰ってしまうばかりでした。

【258】昔の話 15
 直紀  - 09/10/13(火) 22:42 -

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   恐ろしいぐらいの、無味乾燥な日々が過ぎていきました。

学校はギリギリの成績で進級できましたが、僕はすっかり元気を失くしてしまっていました。
勉強も捗らず、もともと無趣味な僕は若さを発散させるなんて術もあるはずなくただぼんやりと毎日を浪費するばかりでした。
一部の女子からは、『大人びた』とか『哀愁を感じる』とか言う向きがあったようですが、勿論僕には聞こえるはずもありませんでした。
脱け殻または生ける屍。そんな風でした。

そうこうしているうちに春休みがやってきました。

ある日の夕方、僕は何の感興もなく駅前を歩いていました。
アルバイトをしてた居酒屋さんはほとんど無意識に避けて通り、用事もないのにスーパーに入りました。
ただブラブラと店内をうろついていました。
お惣菜のコーナーに来た時でした。僕は心臓が止まりそうな気がしました。

Kさんがそこにいました。

Kさんは目立たない背広姿で、フライのパックを手に取りにらめっこ。カゴの中にはビール、じゃなくてお茶のペットボトル?
よく見るとKさん、随分痩せて見えます。
いえ、ゲッソリと痩せていました。
表情はいつものむっつりですが、心なしか少し寂しそうな、元気がなさそうな気がしました。
涙が出てきそうでした。駆けていきたいとも思いました。
でも、僕にはそんな勇気はありませんでした。
品定めが終わったのか、Kさんが動き出しました。僕は慌てて棚の蔭に隠れました。
Kさんはそのままレジへ。どういう訳か僕はその背中を追ってフラフラと歩き始めました。

日曜毎に通った、見慣れた道。いつもは楽しく、少し恥ずかしい道中でした。
この時は…よく覚えていません。
ただ、あの大きな背中を見失うと全てが終わってしまうような気がして…。
やがてKさんのアパートに着きました。Kさんは二階のお部屋へと上がっていきます。
その時、僕の胸の内に『クソ度胸』と言ってもいいぐらいの勇気が湧いてきました。
駆け出すと一心不乱で階段を昇りました。けたたましい鉄板の音にKさんが気付いたのか、僕の方を振り向きました。
僕はKさんの一歩手前で止まると、ただ真っすぐにKさんを見つめました。
動悸が激しいのは、走ってきたからだけではなかったはずです。
言葉は詰まって出てこず、体は動きを止めたまま…ただ、大好きな人を見つめていました。
Kさん、びっくりしたような顔で僕を見てましたが、やがて満面の笑みを見せました。それはこれまで見たことのなかった、ひどく優しくてあったかな笑顔でした。
『よっ!』
軽く手を挙げ、居酒屋さんで見せるいつもと変わらない挨拶。
その刹那に僕は大声で泣きながらKさんの胸に飛び込みました…。

【268】昔の話 16
 直紀  - 10/11/20(土) 0:41 -

引用なし
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   色々な方に読んで頂いてたのに、更新しなくて済みませんでした。
僕自身、この一年に色々なことがあり過ぎて、書く時間も気持ちのゆとりも失っていました。
今更と思われるかもしれませんが、最後まで書き上げたいと思いますので、お付き合いください。


Kさんのお部屋に通されてからは少しだけ落ち着きました。
久しぶりに見る恋人のお部屋は以前と変わらず少し殺風景で、よく片付いていました。隅っこに置かれたアイロン、台所のお鍋、布団など所々に見える生活の匂いが、ほんのり温かみを添えてくれてます。
Kさんがコップを二つ、持ってきてペットボトルのお茶を注ぎ、一つを僕に寄越してくれました。
僕は押し黙ったまま、コップを見つめるだけ。
Kさんはその背後で着替えをしています。
部屋着と寝間着の兼用みたいな、古ぼけたジャージになると僕の前に座り、お茶をぐいっと飲みました。

僕はなんて話したらいいのか、わかりませんでした。狂ってしまったかのようにコップばかり見つめているだけ。
Kさんは新しいお茶を注ぐと、買ってきた物をテーブルに広げました。
『俺、メシ食うけど…いいかな?』
僕に憚るような口調で言いましたが、僕は答えられませんでした。
『直紀も、食うか?』
やっぱり答えられませんでした。
Kさんは夕ご飯を始めました。出来合いのフライ物とお惣菜、インスタントの味噌汁だけ。お供はお茶。
食べてる姿を少しだけ見ましたが、居酒屋さんで見せていたあの豪快さはなくて侘しくて、病人さんのようにも思えました。
『店、辞めたんやな?』
ご飯に味噌汁をかけながらKさんが言いました。
『大将が残念がってたよ。どうしたん?』
『…ごめんなさい』
ようやく言い出せた一言でした。
『…いや、責めてんちゃうで。受験とかもあるやろうし。…まあ、俺も最近ずっと行ってないんやけどな』食事を終えてテーブルの上を片付け始めました。
お店を辞めた理由、言い出せるはずはありません。
他の男の人に汚された体です。話せば全てが終わるに違いありません。
僕は俯いたまま、ぐっと唇を噛んでました。
『どないした?何をそんなに思い詰めた顔してるねん?』Kさんが僕の傍に座り直しました。手がすっと頬に触れました。
僕は咄嗟にその手を払い除けてしまいました。さっきは自分から抱きついたのにどうしてなのか、まるでわかりませんでした。
『ご、ごめん…』
謝ったのはKさんでした。気まずい空気が流れていきました。
『…遅くなったらあかんから…帰り。…今日は来てくれてありがとうな?…久々顔見れて、嬉しかったわ』Kさんの言葉に、僕はギクリとさせられました。
頭に浮かんだ『お別れ』の冷酷な文字。
大好きな人の姿を見失いたくなくて、意を決したというのに、僕と来たら!
鉄の階段を駆け上がった、さっきの『くそ度胸』が再び沸き上がってきました。僕は立ち上がると、着ている物を脱ぎ捨てました。
『お、おいっ!』
Kさんが慌てて止めようとしましたが、僕は構わず、全部かなぐり捨てました。そうして、Kさんの胸に飛び込みました。
『僕は汚れてしまった子です。…それでもいいなら…抱いてください…』

【269】昔の話 17
 直紀  - 10/11/20(土) 1:30 -

引用なし
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   Kさんはびっくりしたようでしたが、やがて僕の髪を撫で始めました。両手で僕の顔を包み込むようにして覗き込みました。とても優しげな視線でした。
『何があった?…話せるなら話してごらん?』

僕は屈辱に満ちた、『あの日』の事を話し始めました…。

話し終わって、不思議と涙は出ませんでした。
Kさんに聞いてもらえてわだかまりみたいなものが消えたのでしょうか、清々しいぐらいだったのを今でも覚えています。
そして、この、僕の恋人はあんな事件のことぐらいで僕を捨てたりする人ではないと確信し、どうして今まで話さなかったのか、とかえって後悔しました。
煙草を吸いながら僕の話を聞いていたKさんは、僕の頭をポンと叩くとクシャクシャしてくれ、それから僕を抱き締めました。
『…辛かったんやな』
抱き締めたまま、Kさんが言いました。
『そんな辛い話を、よく話してくれたな。…ほんま、偉いな、いや、強い子やな、お前は』
抱擁を解いたKさんの眼が涙で潤んでいました。
『…怒らないの?』
『怒るか、あほ。…ていうか、そのオッサン、探しだしてシバき倒さなあかんな!直紀に酷いことしやがって!』
僕は首を振りました。
『やめて、そんなこと。Aさん、殺しちゃうかもしれないから…Aさんが犯罪者になっちゃったら、僕、イヤだよ』
Kさんが息巻くのがなんだかおかしく思えて、僕は久しぶりに笑顔を見せることができました。
『お?やっと笑ったな?やっぱり直紀は笑った顔が一番や。…わかった、やめとくよ。蹴り一発ぐらいで』『もう!』
お互いが吸い寄せられるようにキスへと進みました。『…どんな事があっても直紀は直紀や。…俺の大事な直紀や』
『…ありがとう』

…僕の上に、ゆっくりとKさんの体が重なっていきました。

【270】昔の話 18
 直紀  - 10/11/20(土) 14:18 -

引用なし
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   長いディープキスに続く、まどろっこしいぐらいの緩やかで優しい愛撫。
野蛮な男に犯されたあの日から、自慰にさえ嫌悪感を抱いていた僕にとって、それは心の奥のどこかで渇望していたものに違いありませんでした。
Kさんの手が、唇が体のどこかに触れる度に襲ってくる、ジンと頭が痺れるような感覚。彼もそれを心得ていて、僕の体が小さく仰け反り、喘ぎを漏らす場所をゆっくり、時間をかけて攻めてくれます。
『…忘れてまえ、嫌なことは』囁いてくれました。
Kさんが服を脱いで、再び僕を抱き締めてくれます。『…痩せちゃったね?』
『…実はな、重い病気で入院してたんよ。…もう酒は飲めんかもな。死にかけたしな』
僕は思わず抱き締め返しました。少し煙草の匂いのするKさんの髪に鼻を埋め、深く息をしました。
『…よかった。こうして生きてるんだもの』
『そやな。死なんでよかったわ』
僕の足を大きく開かせるKさん。お尻にKさんのがあてがわれました。
『…中、出さんように気を付けるからな?』
僕は首を振りました。
『いいの。今日は中にしてください。その方が忘れられるから…』
Kさんは少しの間黙ってましたが、やがてゆっくりと僕の中に入れ始めました。胸や頬を愛撫されながらの緩やかで深い挿入。
僕は幸福感いっぱいで受け入れてました。
チン○も痛いぐらいになっていて、長いこと自慰もしていなかったことも手伝って、指一本でも触れられたら出してしまいそうなぐらいでした。
Kさんはそれに気付いているのか、チン○には一切触れずに黙々と抽送を繰り返すだけ。
やがて短く、低い呻きと共に僕のお尻の中に精を注ぎ込みました。
入れたままで僕を抱き締めてくれ、甘いキスをプレゼントしてくれました。
『大丈夫か?』
『うん。…僕、今、とっても幸せです…』
『ならよかった』
Kさんが僕から緩慢な動作で離れました。ちょっとだけ悪戯っ子みたいな笑みを見せました。
『?』
Kさんが突然、まだ勃ったままの僕のチン○に取り付きました。キュッと握られ先の方をチロッと舐められました。
『あ、あーっ!ダメ、ダメっ!』
『いっちゃえ』
チン○をくわえられ、二、三度擦りたてられただけで僕はKさんのお口の中に放出してしまいました。
Kさん、しばらく僕のから搾りだすようにしてましたが、やがて飲み込んでしまいました。
『にっがー。…随分、溜まってたんやな?』
『あほ!いじわるっ!』
『はははは!』

…駅前まで送ってもらい、僕は家に帰りました。

この日の言い尽くせない幸福感は今でも忘れていません…。

【271】昔の話 19
 直紀  - 10/11/20(土) 22:57 -

引用なし
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   再会の日から僕は少しずつ元気を取り戻していきました。

学校では『また明るくなったね』とか『なんか前より可愛くなったね』とか言われ、女子から告白されたこともありました。もっとも、僕はKさんの事が頭にあって断ってばかりでした。勉強も捗るようになり、経済的な理由から進学は諦めたにしろ、まだ目標は漠然としてましたが就職を目指して頑張ろうと思うようになってました。

バイトも再開しました。無断で辞めたので、怒られると思ったのに、みんな温かく迎え入れてくれて子供ながらに人の情けを感じたりしました。

Kさんとの逢瀬は、もちろん続いていました。会うのはバイトのない夕方から夜か、日曜日。公園とか危険のある場所は避けることにしました。
Kさんに勉強を教えてもらうこともありました。
意外と文系に強くて、法律的な知識なんか弁護士さんじゃないのかと思うぐらいでした。
『Aさん、どこの大学だったの?』
『俺?高卒やよ。工業系』『うっそだあ!』
『ほんまやて。法律は好きやから知ってるだけ』
『でも工業系だったら、理数も強いんじゃないの?』『ビブンセキブンとか?んなもん知らん。授業は寝る時間やし、俺は実習専門』『…よく卒業できましたね…』
『ブービー賞だぜ!』
『(…威張って言うことかよ)』
『あ?なんか言うたか?』
勉強の途中や終わったあとの『息抜きしよう』が僕らのエッチの合図になりました。
勉強するのはKさんのお部屋がほとんどだったから、セックスに進むのが普通でした。
『ほら、見てみ?…スケベやなあ』
姿見の前で、Kさんに後ろから貫かれながら足を広げて座らされてます。
『…いや…やめて…恥ずかしいよ…』
『いーや、やめへん。…さっき、いらんこと言うた罰や。…こんなに大きくしやがって…このまま何回もイカしたるからな、覚悟せーや?』
『…ごめんなさい…もう言わないから…』
…こんな、少し変態なこともしばしばありました。

ある日、終わったあとでKさんがふと言いました。
『…英雄ではなく、他より優れているでもなく、むしろ弱々しい存在。ただ、逆風の中で拳を握り締め、顔を上げて立っていられるだけの強さだけは持っている。そんな少年…』
『…なにそれ?』
『いや、戯言やよ。オッサンの』
『詩人、みたいですね』
『つまらんリフレインや。理想像やよ、ただの』
僕はKさんの胸に頬をすり寄せました。
『僕が、それになってあげられたら、いいな…』
Kさんは僕の髪を撫でてくれました。

幸せな時間が静かに流れ、二人を包んでいました。


やがて残酷な時を迎えるなんて知らず…。

【273】昔の話 20
 直紀  - 10/11/23(火) 1:16 -

引用なし
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   高校三年の夏は本当に楽しい季節でした。
二人で富士五湖へのキャンプに出掛け、まるで小学生みたいにはしゃぎまわりました。

その余韻が冷めない晩夏のある夜、Kさんがお店にやって来ました。
年の初めに入院されてからずっとお酒はやめていたはずです。お店に来るのなんて、本当に久しぶりで店長さんとかもすごく驚かれてました。
『よう』軽く手を挙げながらの以前のままの挨拶。
『なんだい、久しぶりだねぇ!どうしたんだい?ずいぶんスマートになっちゃって!』
『色々ありましてね。…直紀君、生な?』
僕とKさんの間柄は秘密だから、僕からは何も言えません。出された大ジョッキを持っていくと、Kさん一息で半分を空けちゃいました。
『お酒、大丈夫なの?』
小声でそっと尋ねました。『あ?…心配すんな、自分のことは自分が一番わかっとる』
『でも…』
『えーから。今日は飲まんと気が済まんのや。ほれ、おかわり』
『…』
空のジョッキを手に厨房に入りました。

それからのKさんときたら以前の豪快な飲みっぷり、食いっぷりでした。他のお客さんとも意気投合して、差しつ差されつ…。
Kさんの体のことを知ってる僕は気が気で仕方ありませんでした。
『直紀君、えらい人気者やな!』
『そうなんですよ。今じゃウチの自慢の看板息子ですよ』
店長さんと話すKさんに日本酒をお持ちしました。
いつもなら僕から注いであげるのですが、この時はする気になれませんでした。『どした?注いでくれへんの?』
僕の気も知らないで振る舞うように思えて、何となく腹立たしく思いました。
『Kさん!飲みすぎですよっ!』つい言ってしまいました。
それが思いがけず、怒気を含んでいたのかも知れません。
Kさんも店長さんも隣のお客さんも呆気にとられたようになりました。
『…お兄ちゃん、急にどうしたのよ?』
お客さんに言われて、はっとしました。何か取り返しのつかないことをしてしまったような気がしました。『直紀、お客さんに向かってそんな言い草はないだろう?』
するとKさんが手を上げて制しました。
『…いや、彼の言うとおりですわ。…今日は帰りますわ』
『ああ、Kさん!』
Kさんが立ち上がります。店長さんが目配せしたので僕はレジへと走りました。『…ごめんなさい』
『ええんよ。俺もお前の気持ち知らんで、悪かった』会計をしながら、小声でやりとりしました。
『大将、すんません。また来ますわ!』

外に出てKさんをお見送りします。
残暑の夜の、むっとした空気が立ちこめていました。『日曜、いけるか?』
『うん…』
『ウチでゴロゴロしよか』『うん。…なにか埋め合わせするね?』
髪を撫でてくれました。笑顔で僕の顔を覗き込んでくれましたが、何となく寂しさが見え隠れしてました。『ええねん。気にすんな!…それより、戻る前におっきい声ですんません、って言うときや?…大将に怒られんようにせんと』
『はい。…ごめんね、ほんとに…』
Kさんはもう一度、笑顔を見せると歩きだしました。僕はその背中を見送っていましたが、ひどく切なく見えて、自分が情けなく思えて、涙が出てきました。

『申し訳ありませんでした!お客さま!』

ありったけの声で叫びました。

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